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■ 営業権の減損で大赤字になるM&Aは止めよう

IPO(上場)する前に、一気に売上と利益をかさ上げしようと考えて、似たような業種の会社を買収(M&A)した。
M&Aした会社の資本金は1,000万円。
一方、売上は10億円で利益は税引前で毎年1億円にもなる。
そのため、第三者に株価算定を依頼して、3億円でM&Aした。
M&Aの方法はいろいろあったが、IPO(上場)するときに子会社があると監査上の問題や経理も連結で煩雑になる。
そこで、合併という方法をとった。

ここで、資本金1,000万円と売買金額の3億円の差額が営業権として、決算書上に資産として計上された。
ここまでは、何の問題もないし、会計上の処理も合っている。
しかし、監査法人から、決算期(上場の直前期になる)に営業権を全額償却して欲しいと要求された。

社長は、

「買った会社は技術力がある。その超過収益力として3億円が営業権になっている。第三者の株式評価の報告書もある」

と監査法人に主張した。

ところが監査法人から、

「では、その超過収益力を数字で見せてください」

と言われて、社長は言葉に詰まってしまった。

「営業権は20年間で均等償却できると本に書いてある」

とは思ったが、監査法人が監査証明を出してくれなければ、IPO(上場)はできない。
直前期にお互いの仲が悪くなるのは避けたい。
結局、3億円の償却損を損益計算書に計上した。

買った会社の税引前利益1億円を差し引いても、約2億円の赤字が加わる。
もともとの事業の利益と合算すれば黒字にはなったが、証券会社から提示された株価は想像以上に安くなっていた。
苦渋の決断で、IPO(上場)を1年間だけ延期することにした。
これでは、何のためにM&Aしたのか分からない。

こんなことになった原因は、どこにあったのだろうか。
結論を言えば、M&Aするときに営業権をよく調査しなかった社長が悪い。
監査法人として、裏付けのない資産をそのまま計上させておくわけにはいかない。
特に、上場審査で証券取引所が指摘しないわけがない。
監査法人にとっても、証券会社にとっても、IPO(上場)が1年延期されることにメリットはない。
では、具体的に社長はどうすればよかったのだろうか。

営業権のままではなく、具体的な権利(特許権、商標権など)に振り替えておけばよかったのだ。
特許権であれば、M&Aした会社が持っている権利を第三者に貸し付けた場合のロイヤリティを計算する。
このロイヤリティが受け取れる期間を合理的に予想する。
その合計を現在価値に割り引くと、特許権という資産の価額になる。

もちろん、3億円の営業権がすべて特許権に変わるはずはない。
しかし、2億円でも特許権に変われば、営業権の償却費は1億円となる。
裏づけとなる資料を揃えておけば、特許権を一度に償却するように、監査法人も指示しない。
彼らが、その資料が間違っているという反論を出さなくてはいけないからだ。
これは特許権でなくとも、営業権のままでも、その裏づけとなる資料を揃えることで償却する年数を変えることができる。

でも、よく考えると当たり前のことだろう。
資産価値がない営業権を買って、最終的に儲かるはずがない。
株価評価においても、なぜ、その金額になったのかを追求すべきだ。
そして、将来の決算書にどのような影響を与えるかを理解することが社長の役目だろう。

(監修 公認会計士 青木寿幸)

投稿又は更新日時:2007年02月01日 11:50


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